家族で築く「予防歯科という生き方」

オーラルフィジシャン・チームミーティング2025

——赤倉美里先生が語る、チームと家族の物語

JOFチームミーティング2025でひときわ印象的だったのが、ページデンタルクリニック(埼玉県上尾市)副院長・赤倉美里先生の発表だった。
タイトルは「女性の視点によるチームビルディングとMTMの実践」。
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人の子どもを育てながら、夫婦で一つの医院を運営し、MTM(メディカルトリートメントモデル)を自分たちの形で根づかせてきた、その歩みを語った。

 

 予防歯科との出会いは、研修医時代の一言から

赤倉先生の原点は、研修医のころに出会った患者さんの言葉だった。
「どうして、病気になる前にできることを教えてくれないの?」
その一言が、治す医療から守る医療へと視点を変えるきっかけになったという。

とはいえ、当時はまだ予防の実践法も、周囲に共感してくれる環境も少なかった。
オーラルフィジシャンセミナーに参加しても、「予防は衛生士がやるものでは?」という固定観念が残っていた。
出産を機に一度現場を離れたが、夫の開業をきっかけに再び歯科へ戻り、「自分がドクターとして予防をやる」と決意する。
ここから、彼女の再挑戦が始まる。

 

夫婦の価値観の違いから生まれたもう一つのチーム

「最初の壁は、主人との考え方の違いでした」
治療中心の夫と、予防に重きを置く自分——
お互いの信念がぶつかり合う日々が続いた。

しかし赤倉先生は「予防と治療は対立するものではなく、一人の患者を支える両輪だ」と気づく。
夫の治療を理解し、学び、橋渡し役としてチームをまとめ直した。
結果、医院は予防も治療も一体となった総合診療型へと変わっていった。
MTMが院の幹となり、そこに夫の治療や衛生士のケアが枝葉のようにつながっていく」——その言葉どおり、今のページデンタルクリニックは一本の大樹のように成長している。

 

「お互い様」で築く心理的安全性

チーム再構築の鍵となったのは、制度ではなく安心感だった。
スタッフの9割が未就学児を育てる母親。
仕事・家事・育児の時間軸が重なり合うなかで、続けられる職場をどう作るか——

赤倉先生はまず、「ご迷惑をおかけします」という言葉を禁止し、「ありがとうございます」と言い換えるルールを作った。
休むことを申し訳ないではなく、支え合えることに感謝する文化へ。
次に、柔軟な業務体制を導入し、誰が休んでもカバーできる仕組みを整えた。
さらに、LINEワークスを活用した情報共有で、休んだスタッフもスムーズに戻れる環境を整備。

「母親が安心して働ける医院は、患者さんにとっても安心できる医院になる」
そう信じて、一つひとつの仕組みを形にしてきた。

 

数字の裏にある続けられる医院の仕組み

開業当初は中断率48%。
それを、「仕組みと文化の問題」として真正面から見直した。
MTM
をチーム全体で共有し、治療・予防・再評価の流れを一貫化。
医療者が同じ理念と目的で動くようになったことで、患者の継続率は着実に上がった。

唾液検査(CRT検査)を評価ではなく行動のきっかけとして活用し、
患者が「自分で気づく」プロセスを重視している。
結果、現在は年齢を問わず95%以上の患者が定期検診を継続。
「唾液検査は、患者さんが自分で考える力を育ててくれるツールなんです」と話す笑顔が印象的だった。

 

家族とスタッフが一つのチームに

講演の最後に行われた質疑応答では、発表者の赤倉美里先生が笑顔でこう語った。
「三年目までは離婚しようと思ったこともあります(笑)」

その言葉には、これまでの葛藤と、夫婦で乗り越えてきた深い信頼がにじんでいた。
会場の一番後ろでは、夫の赤倉武彦先生が3人の子どもと赤ちゃんを抱っこ紐で抱えながら、
静かに、そして優しくその発表を見守っていた。
子どもたちが勉強会の邪魔をしないようにという気遣いでもあった。

司会者にマイクを向けられた赤倉武彦先生は、少し照れながらも、
「美里先生の情熱に負けました」と一言。
その場の空気がふっと柔らかくなり、会場全体が温かい拍手に包まれた。

そして何より印象的だったのは、スタッフ全員が小さな子どもを連れて参加していたこと。
「母親であることを理由に、夢をあきらめない」——
そんな空気が、会場全体に広がっていた。
家族もスタッフも、医院を支えるもう一つのチームとしてそこにいた。

 

継続は、力よりで育つ

赤倉先生は講演の最後にこう語った。
「まだ私たちの医院はスタートラインに立ったばかりです。
 でも、続ける力をチームで支え合うことで、少しずつ形になってきました」

この言葉に、会場中が大きくうなずいた。
予防歯科の理念を、家庭やチームのなかで生きること。
それがどれほど美しく、どれほど勇気を与えてくれるか——

ページデンタルクリニックの取り組みは、
家族とともに歩む予防歯科という新しい時代のかたちを私たちに見せてくれた。

 

文責:JOF事務局 伊藤
JOFチームミーティング公式サイト/予防歯科ポータルサイト転載許可済)