MTM(Medical Treatment Model)

解説:MTMの概念は、歯科医療においても医療の観点を持つべきだとするもので、Bo Krasse氏(イエテボリ大学カリオロジー科教授)により日本に紹介されました。患者の訴えを聞き症状を改善するだけでなく、医療において標準的な以下のような流れで診療を行うべきだというものです。

  1. 患者の病歴、訴えなどを把握し
  2. 必要ならば検査を行い
  3. 疾患の原因を取り除き
  4. 症状を軽快させる
  5. 治療結果をモニターし
  6. 再発予防の所要の処置を講ずる

この概念を実臨床に導入したのが、熊谷崇氏によって考案された診療システムとしてのMTMです。初診検査からメインテナンスに至るまでの各ステップにおいて行うべき検査や指導、担当者や移行基準などを規定し、全ての患者が標準的歯科医療を受けることができるシステムとして確立しました。診療は以下のような流れで進みます。

  1. 初診検査
  2. 結果説明
  3. 初期治療
  4. 再評価
  5. 治療
  6. 再評価
  7. SOT
  8. メインテナンス

この診療の流れは特別なものではありません。日本の歯周病治療ガイドラインも同様であり、世界的にも教科書でこのような診療の流れについて記載があります。MTMはOral Physicianだけが行う特殊な診療ではなく、世界的に標準と捉えられる歯科医療なのです。しかし、これらを実臨床にて体系的に実践される例は決して多くなく、その点においてMTMは特異性があると言うことができます。

生涯にわたる口腔の健康を維持するためには、健康を損なう原因を取り除くことが必要です。歯を失う理由の多くは「う蝕」と「歯周病」の口腔二大疾患ですが、WHOの疾患分類において近年はNCDs(非感染性疾患)に分類されており、生活習慣コントロールの重要性が強く示唆されています。これらの疾患について患者との共通理解を形成し、医療者と患者が協力して疾患をコントロールする患者の行動変容モデルとしてMTMは高い成果を上げることが可能です。

口腔疾患を医療的観点で捉え、確実にそのコントロールを行うための診療システムがMTMです。MTMを歯科臨床の柱として医院に据えることで高い規格性のある資料や分かりやすいリスク評価を医療者、患者が共通認識として持つことができます。人々の口腔の健康を生涯にわたって維持する上で欠かすことができない診療システムです。