オーラルフィジシャン・チームミーティング2025 開催レポート

オーラルフィジシャン・チームミーティング2025写真

歯科医療の「真の価値」を上流から問い直す —— 志を共にする変革の1日
2025年12月、都内でチームミーティングが開催された。

本会では、歯科医療の未来を見据えた8名の登壇者が、それぞれの立場から知見と経験を体系的に提示した。
以下では、当日のプログラム順に、その内容と示唆を振り返る。

開催概要

イントロダクション
JOFの活動報告
特別講演
「こどもまんなか社会が目指す小児歯科医療ついて考える」
特別講演
クリニックの生産性をみんなで高めるヒケツとは
〜パワハラ予防とチームビルディング〜
ランチョンセミナー私たちが取り組む社会連携のかたち
今出 みなみ 様
富士通Japan株式会社
矯正治療の外科・非外科
歯内療法の外科・非外科
クロージング
次年度の活動について

・JOF会員は敬称を省略しております




フォトレポート

◉イントロダクション

JOFの活動報告
畑 慎太郎
(JOF理事長/アップルデンタルセンター)

■MTMの本質は「心」にあり。患者の期待感に寄り添う、予防歯科の真髄

「MTMは単なる診療フローではない。患者さんとの向き合い方そのものである」。
畑先生はこの言葉を起点に、MTMを“構造“ではなく“関係性“として捉える視点を提示した。
ボイストレーニングやジムでの経験を通じて得た「教わる側の体験」から、できなかったことができるようになる過程そのものが、人の行動を支える原動力であることを示した点は象徴的である。
10年にわたる長期データが裏付ける「抜歯を回避し、健康を育む」臨床の価値は、MTMが目指す方向性を明確に示すものであった。

◉特別講演

「こどもまんなか社会が目指す小児歯科医療ついて考える」
岡 暁子 先生
(福岡歯科大学 教授)

■子どもは社会の宝。50年後の健康を「上流」から創る小児歯科医療

岡先生は、大学病院という高度医療の現場に身を置きながら、社会全体を俯瞰する「アップストリーム」の視点を提示した。
むし歯の背景に潜むネグレクトなどの社会課題を察知し、医療が果たすべき「セーフティネット」としての役割を強調した点は、本講演の重要な軸である。
「溺れている人を助けるだけでなく、なぜ川に落ちるのかを考える」という言葉は、予防医療の本質を端的に表していた。
臨床面では、定位乳歯へのレジン築盛による再萌出誘導など、子どもの成長力を前提とした治療が紹介された。
また、「7歳・10歳でのパノラマ撮影」が将来の健康を左右すること、「8020達成者に開咬は見られない」というデータに基づく示唆は、小児歯科の社会的意義を強く印象づける内容であった。

◉特別講演

「クリニックの生産性をみんなで高めるヒケツとは 〜パワハラ予防とチームビルディング〜」
津野 香奈美 先生
(神奈川県立保健福祉大学 教授)

■1:4の黄金比がチームを変える。心理的安全性から生まれる生産性

津野先生は、社会疫学の立場から職場のハラスメント予防とチーム形成について講演した。
特に注目を集めたのは、「ネガティブな指摘1に対し、ポジティブな評価を4伝える」という1:4の法則である。これは生産性を高めるコミュニケーションの黄金比として、科学的根拠とともに示された。
また、経験を重ねた立場にある者ほど陥りやすい「知の呪縛」に言及し、挨拶や傾聴といった最低限の礼節(シビリティ)を職場文化として定着させる重要性を指摘した。
誰もが弱音を吐ける環境づくりこそが、多世代が共に働くチームの基盤であることが、具体例を交えて語られた。

◉ランチョンセミナー

「私たちが取り組む社会連携のかたち」
今出 みなみ 様
(富士通Japan株式会社)

■ICTで加速する予防の輪。村まるごと健康にする社会実装の最前線

富士通における予防歯科の取り組みと、それを社会へ展開する実践例が紹介された。
特に、人口約740人の北海道・神恵内村における医科歯科連携の事例は、歯科医療が社会インフラとして機能する可能性を示すものである。
可視化ツール「デカゴン」を用い、糖尿病専門医と歯科が連携して住民を支える仕組みは、行動変容を促す実装モデルとして高い完成度を持つ。
「楽しそうだからやってみる」という感覚を起点にしたアプローチは、予防を社会に根付かせるうえでの重要な示唆を含んでいた。

◉講演

「矯正治療の外科・非外科」
晝間 康明
(JOF理事/OP晝間歯科 矯正歯科)

■後戻りという課題に向き合う。一生涯の安定を追求する矯正歯科医の視点

「長期に安定しなければ、矯正治療を行う意味はない」。
晝間先生は、後戻りという矯正治療に内在する課題を正面から捉え、一生涯のメンテナンスを前提とした治療観を提示した。
軟組織、すなわち筋機能との調和を重視し、患者の希望を単一のゴールではなく「グラデーション」として捉えるプロセスは、現実的かつ誠実な専門医像を示している。
「コントロールできないものを無理にコントロールしない」という姿勢が、結果として安定した機能美につながることが、具体的な臨床観点から語られた。

「歯内療法の外科・非外科」
田中 利典
(JOF理事/東京歯内クリニック)

■「残せるか」を見極める判断力。専門医療と地域連携の実際

田中先生は、歯内療法専門医として「治る基準」と「限界のサイン」を明確に示した。
非外科的再治療と外科的介入それぞれの成功率を数値で示し、根拠に基づく意思決定の重要性を強調した点が印象的である。
CTでも判別が難しい垂直性歯根破折を見抜く視点や、病名にとらわれず症例の難易度を正しく評価する姿勢は、患者の長期的利益を守るための専門性そのものであった。
一般医と専門医が連携する「診診連携」の具体像が、実例を通して示された。

◉JOF会員発表

義歯中心の補綴臨床から『八木山モデル』へ
川村 真之
(せせらぎ歯科クリニック)

■理念が組織を支える。地域と歩む八木山モデル

川村先生は、「我が子に受けさせたい歯科医療」を原点に、地域の中学校で講話を行い、カリオロジーを学問として伝える取り組みを紹介した。
経営的な困難に直面する中でも、受講時に掲げた「公約」を守り続けたことが、組織を支える力となった点は示唆に富む。
スタッフ自らが「予防の質を落とさないために初診を制限しよう」と提案するまでに至った背景には、理念が共有されたチームの存在がある。
理念が行動に転化した組織の強さが、具体的な事例として示された。

家族で築く「予防歯科という生き方」
赤倉 実里
(ページデンタルクリニック)

■「お互い様」が生むチーム力。しなやかなMTMの実践

4人の子育てと臨床を両立しながら、心理的安全性を基盤とした医院体制を再構築した実践が報告された。
「ご迷惑をおかけします」を「ありがとうございます」に言い換える文化、誰もがカバーできる柔軟な体制づくりは、組織運営の具体的な工夫として紹介された。
MTMを診療の「幹」とし、ドクターや歯科衛生士が専門性を発揮してつながる組織図は、継続的な予防医療の一つの完成形といえる。
「患者に根付いたのは医療者ではなく、患者自身の行動だった」という言葉は、MTMの本質を端的に表していた。

◉イントロダクション

次年度の活動について
宮城 和彦
(JOF理事/みやぎ歯科室)

■ 事務局より:2026年に向けて

本チームミーティングを通じ、「Keep 28」という目標を共有するネットワークが、単なる集まりではなく、一つのチームとして機能していることが確認された。
2026年3月の酒田交流会、10月の次回チームミーティングにおいて、さらなる実践と深化が共有されることが期待される。

◉企業参加

デンツプライシロナ株式会社

白水貿易株式会社

メディア株式会社

有限会社サンフォート

クロスフィールド株式会社

株式会社オーラルケア

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