
第77期Oral Physician育成セミナーは、実技を伴うプログラムのため、新宿区内の歯科医院をお借りして開催されました。
申し込みのあった医院のうち2歯科医院がスタッフの都合により直前に次回以降の参加となったため、今回は少人数での開催となりました。
しかし、会員スタッフの歯科衛生士の参加やJOF会員理事の全面的な協力もあり、少人数ならではの密度の高い学びと、非常に活気あるセミナーとなりました。
開催概要 Day 1
・JOF会員は敬称を省略しております
開催概要 Day 2
〜歯科衛生士と受付が変革の当事者になるために~
・JOF会員は敬称を省略しております
フォトレポート Day 1
◉趣旨説明)
宮城 和彦(JOF理事・みやぎ歯科室 歯科医師)

Oral Physician育成セミナーは、もともと熊谷先生が主宰していた勉強会「SAT」として始まり、4年前にJOF(日本オーラルフィジシャンフォーラム)が引き継いだ。 その経緯と現在の位置づけを、JOF理事であり自身もOP63期である宮城先生が冒頭の趣旨説明として語った。
宮城先生が強調したのは、メディカルトリートメントモデル(MTM)は決して特別な手法ではないという点だ。日本歯周病学会が推奨する診療の流れと本質的に同じであり、世界的な視点からも標準的な予防歯科の考え方に沿っている。メインテナンスやカリエスに対する世界の潮流が変わりつつある中で、日本の歯科医療もその方向へ向かうことは必然であること、そしてそれを先取りして実践することの意義が語られた。
趣旨説明の後半は、宮城先生自身がOP63期として育成セミナーに参加した当時の思い出に及んだ。他のセミナーとは明らかに異なる雰囲気——歯科技術の習得にとどまらず、歯科業界全体をどう変えるかという社会的な視点がそこにはあった。その驚きとワクワク感は今も鮮明で、当時使っていたノートを実際に参加者へ見せながら語る場面は、言葉以上に当時の熱量を伝えるものだった。現役の理事がかつての学び手として自らの原点を示すことで、これから始まる1.5日間の学びに参加者が向き合う姿勢を自然と整える、印象的な幕開けとなった。
◉参加医院 自己紹介
有馬 孝一(ライオン歯科クリニック 歯科医師)
2012年開業。ユニット2台(Dr用・DH用各1台)、Dr1名(常勤)・DH2名・助手3名・事務1名体制。
矯正専門の非常勤Drも在籍する小規模クリニックながら、2019年より予防歯科の学びを開始し段階的に予防型への転換を進めてきた。
医院全体の課題として、DrとDHの情報共有不足・検査データの分析考察が未実施・診療時間外のミーティング確保・スタッフ間の知識レベル差・設備の老朽化が挙げられる。個人別には、有馬DrはDHとの治療経過共有と役割分担の明確化、福岡DHは情報過多による伝達不足とチェアタイム超過、鈴木DHは口腔内写真・SRP・保険治療フローなど基礎的知識・技術の習得が課題となっている。
有馬先生が問題意識として掲げるのは、マイクロやデジタル技術・テクニック偏重の現代歯科医療への疑問である。「敷石を一枚一枚裏返して確かめながら行う歯科医療」という言葉に表れる通り、形だけでなく本質に向き合う診療姿勢を全員で共有することを目指す。発症予防の定着と咬合・力・栄養・生活習慣まで包括的に診る医院として、患者が生涯を通じて健康を維持できる場づくりを目標としている。
麻生田 泉(飯田橋内科歯科クリニック 歯科医師)
1994年開業、千代田区飯田橋に所在。ユニット8台、歯科医師10名・歯科衛生士7名・受付助手4名体制。
医院名が示す通り医科・歯科連携を重視し、「全身と口腔を一体として捉える医療」を理念とする。口腔単位ではなく一個体単位で患者を診るアプローチを全院で実践している。
現在は治療中心型から予防中心型への転換に取り組む過渡期にある。初期治療フローの未確立、患者が予防の意義を十分理解しないままメインテナンスへ移行するケース、検査結果説明の断片化によるチェアタイムの長期化、リスク評価に基づく個別予防プログラムの構築不足が主要課題。セミナーでは手法だけでなく「なぜその検査が必要か」「患者にどう伝えるか」という本質的理解を深めることを目的として参加している。
麻生田先生が課題として掲げるのは、現行制度における医科・歯科の分断である。「人の身体は一つ」という前提のもと、医科・歯科・他職種が情報共有しながら連携する体制の実現を長期目標とする。将来的には患者情報の継続的蓄積と個別健康管理計画の提供を通じて、「当院に通い続ける限り、口腔疾患の再発と重篤化を限りなくゼロに近づける」ことを目指している。
◉講演
「Oral Physicianという選択〜理想と現実のあいだで悩む臨床家のためのヒント~」
畑 慎太郎(JOF理事長・アップルデンタルセンター 歯科医師)
「治療を重ねているにもかかわらず、なぜ歯は失われ続けるのか」。育成セミナーは、畑先生によるこの問いかけから幕を開けた。予防中心型歯科医療の重要性は多くの歯科医師が認識しているにもかかわらず、制度・時間・人材・経営・患者理解・組織の抵抗といった複合的な障壁により、現場での実装が進まない構造的現実が丁寧に整理された。
講演の核心は「変えられない制度と変えられる組織の切り分け」にある。制度的制約を所与としながら、どこから手をつければ組織は動き始めるのか。アップルデンタルセンターにおける予防導入初期の実体験——スタッフの反発、院内の混乱、診療システムの試行錯誤——が、成功譚としてではなく変革プロセスの自然な経過として語られた。「できた医院の話」ではなく「変わっていく医院の現実」として届くからこそ、参加者は「自分たちにもできるかもしれない」という現実的な手応えを得ることができる。
抽象的な理念を具体的な臨床例・組織運営の事例へ落とし込む構成力は、行政・大学・企業など歯科以外の場での豊富な登壇経験に裏打ちされている。歯科医師・歯科衛生士・経営者、職種や立場を問わず刺さる設計で、これから始まる1.5日間の学びへ参加者の意欲を引き込む導入として、毎回その役割を高いレベルで果たしている。
◉講演
「効果的な初期治療へと変えていく視点」
杜塚 美千代(アップルデンタルセンター 歯科医師)
「なぜ同じMTMを導入しているのに、成果が出る医院と出ない医院があるのか」。杜塚先生の講演はこの問いを出発点に展開された。初期治療はメディカルトリートメントモデルの要であり、ここでの介入の質がその後の修復補綴治療・メインテナンスの成果を大きく左右する。しかし現実には、教科書通りのフローを導入していても「やっているが、効いていない」状態に陥っている医院は少なくない。
その原因は技術的な問題ではなく構造的な問題にある、と杜塚先生は整理する。具体的には、①患者ごとのリスクや生活背景が初期治療に十分反映されていない、②再評価が数値確認で完結し次の治療方針に活かされていない、③チーム全体で初期治療の意義が共有されていない——の3点が形骸化の主因として示された。そのうえで「患者ごとに初期治療をどう組み立てるか」「再評価で何を見るべきか」「MTMを形骸化させないために何が必要か」という視点が、豊富な実例をもとに解説された。
この講演が特に説得力を持つ理由は、杜塚先生が現在もアップルデンタルセンターで初期治療の現場に立ち続けていることにある。歯科医師と歯科衛生士の双方の視点を持ちながら日々診療に携わる立場から語られる内容は、理想論ではなく「診療室でどう実践するか」という具体性に満ちている。MTM導入初期の医院には指針となり、既存医院には自院の取り組みを見直すきっかけとなる、育成セミナーの中でも極めて価値の高いプログラムである。
◉実習
デンタル撮影・口腔内写真撮影 実習
花岡 佑み子(アップルデンタルセンター 歯科衛生士)
相澤 紀花(アップルデンタルセンター 歯科衛生士)
午後の実技セクションは、アップルデンタルセンターの花岡佑み子さんと相澤紀花さんが中心となり、口腔内写真撮影・デンタル撮影などを実際に手を動かしながら学ぶ時間となった。患者モデルを務めたのはJOF理事の先生方である。座学が続いた後だけに、参加者はここで初めて手足を動かす場面を得て、その表情は明らかに生き生きとしていた。
知識として理解していることと、実際に手を動かして体感することは別物だ。撮影の角度・ミラーの使い方・患者への声かけのタイミングなど、テキストでは伝わりにくい「感覚」がある。実技の時間はその感覚を自分のものにするための貴重な機会であり、参加者がセミナーの学びを臨床へ持ち帰るための重要な橋渡しとして機能した。
花岡さんと相澤さんの動きは、日々の臨床で磨かれた手際の良さと無駄のなさが際立っていた。アップルデンタルセンターが培ってきた効率的な作業手順がそのまま体現されており、参加者はその洗練された所作に驚きを隠せない様子だった。講義で語られた内容が、実際の動きとして目の前に示されることで、理想と現実の距離が一気に縮まる瞬間だったように感じる。
◉講演
「カリオグラムを用いた患者説明」
杜塚 美千代(アップルデンタルセンター 歯科医師)
実技セクションに続き、杜塚先生によるカリオグラムを活用した患者説明の座学が行われた。まず整理されたのは唾液検査の位置づけについてである。唾液検査は「検査」という名称から厳密な医学的診断を連想されやすいが、実際にはその人のむし歯リスクを可視化するためのツールであり、患者自身が自分の口腔状態を「自分事」として捉えるきっかけを作ることに本来の価値がある。歯科衛生士にとっては、患者との対話を始めるための材料として機能する点が強調された。
その延長線上に位置するのがカリオグラムの活用である。唾液検査を実施しない場合でも、問診情報や既存のデータをもとにカリオグラムを作成することで、その人のむし歯のなりやすさを客観的なグラフとして可視化できる。数値や専門用語で説明するよりも、グラフというビジュアルで示すほうが患者には直感的に伝わりやすく、リスクの高さを「自分の問題」として受け入れてもらいやすい。
歯科衛生士が患者に予防の必要性を伝える場面では、いかに患者自身の動機を引き出すかが鍵となる。カリオグラムはその場面において、押しつけではなく「一緒に確認する」という対話の起点となるツールだ。知識を持っていても患者への伝え方に悩む歯科衛生士にとって、即座に臨床へ応用できる具体的な視点として届いた内容だった。
◉講演
「メインテナンスプログラムの設計〜数値・リスク・人をどう統合するか~」
花岡 佑み子(アップルデンタルセンター 歯科衛生士)
予防歯科に取り組む医院にとって、メインテナンスは日常診療の大きな割合を占める。しかしその一方で、メインテナンスが「定期的に来院してもらいクリーニングを行う時間」として固定化されてしまうケースも少なくない。花岡さんの講演は、そうした固定観念に正面から向き合う内容だった。
講演の軸となったのは「メインテナンス間隔は決められるものではなく、導き出すもの」という視点である。3か月・6か月という期間ありきの設計ではなく、①数値指標、②リスクファクター、③患者ごとのパーソナルファクターの3軸を統合しながら個別のプログラムを設計する考え方が体系的に整理された。そしてその根拠を患者自身が理解できる形で説明することが、継続受診の定着につながることが示された。
講演では実際の臨床動画も用いられ、「何を行うか」だけでなく「何をあえて行わないか」という判断基準まで具体的に提示された。限られた診療時間の中で優先順位を見極める力は、日々の臨床で即座に活かせる視点として参加者に届いた。畑先生「なぜ変わるのか」→杜塚先生「初期治療の機能化」→花岡さん「成果の維持」という講演の流れは、MTMの一連のプロセスを実践的に学ぶ構成として高い完成度を持っている。
フォトレポート Day 2
「医院全体で根付かせるMTM〜歯科衛生士と受付が変革の当事者になるために~」
和田 由希(アップルデンタルセンター 受付)
相澤 紀花(アップルデンタルセンター 歯科衛生士)
MTMを導入した多くの歯科医院では、時間の経過とともに予防の実践は歯科衛生士が主体となり、歯科医師と分離していく傾向がある。アップルデンタルセンターはそこからさらに一歩踏み込んでいた。同院が着目していたのは歯科医師・歯科衛生士の役割分担ではなく、「医院全体の総合力をどう高めるか」という視点であり、その鍵を担っていたのが受付スタッフだった。
受付は患者が最初に接し最後に言葉を交わす存在であり、医院全体の情報が集まる場所でもある。アップルデンタルセンターでは受付がコントロールタワーとして機能し、歯科医師・歯科衛生士・患者をつなぐ役割を担っていた。講演では、初診時の情報収集・院内理念の伝達・継続受診の支援という受付業務の具体的手順が、実際の問診票・チェックリスト・説明資料とともに公開された。理想的な成功例としてではなく、試行錯誤のプロセスそのものが当事者の言葉で語られた点が、この講演の大きな特徴である。
特にユニット5〜8台規模の中小歯科医院にとって示唆が大きい。院長一人の熱意に依存するのでも、歯科衛生士だけに予防を任せるのでもなく、受付を含めたチーム全体が同じ方向を向いて各役割を担うことで、医院の理念は組織に根付いていく。同行したスタッフにとっては「自分たちにもできるかもしれない」という希望を、院長にとっては「人が入れ替わっても理念が残る組織をどう作るか」という具体的なヒントを与えてくれる内容だった。
グループディスカッション
座長:宮城 和彦(JOF理事・みやぎ歯科室)
育成セミナーの最後を締めくくったのは、宮城和彦先生が座長を務めるグループディスカッションである。知識や技術を習得することと、それを自院のシステムとして定着させることは別の問題だ。患者の行動変容をどう促すか、リコール率をどう維持するか、院長の思いをどう組織全体へ浸透させるか——講義に納得しても、診療現場に戻れば様々な壁に直面する。このディスカッションはそのギャップを埋めるための時間として設計されている。
「患者がメインテナンスへ移行してくれない」「歯科衛生士の育成が難しい」「MTMの再評価が形骸化している」「院長の考えがスタッフに伝わらない」——各グループで現場ならではの率直な課題が共有された。他院の事例を聞くことで「同じことで悩んでいる医院がある」「その課題にこういう工夫をしている医院がある」という発見が生まれ、その気づきが明日からの行動を変えるきっかけとなる。宮城先生は進行役に留まらず各発言の背景を整理しながら、議論が情報交換で終わらないよう深化させた。
本セミナー全体を俯瞰すると、畑先生が「なぜ変わるのか」を語り、杜塚先生が「初期治療の設計」を示し、花岡さんが「成果の維持」を解説し、和田さんと相澤さんが「組織への定着」を共有した。グループディスカッションはそれらの学びを参加者自身の医院へ置き換えるための時間であり、セミナーを「知識」から「行動」へ転換する最終工程として機能した。
次回のお知らせと課題の説明
佐藤 長幸(JOF理事・グリーンヒルズ・デンタルクリニック)
次回セミナーの内容説明は佐藤先生が担当した。次回は歯科衛生士による検査内容のプレゼンテーションが中心となる。発表フォーマットとして求められるのは、総合実習の結果報告、個人の成長がわかる記録、口腔内写真の初回と直近の比較、撮影時間の変化などである。さらに、実際にMTMを実践した患者症例の提示、歯周病新分類の適用状況、セミナー受講後に準備した設備・器材の報告も含まれる。
前半はオンライン形式で実施され、歯科衛生士による実践報告と課題解決ワークショップが行われる。初診検査の総合実習を通じて習得した技術・設備・資料の整備状況、実際の症例への適用プロセスと具体的な経過を参加者間で共有する。実践の結果をまとめ発表することで、スタッフ個人のスキルと動機づけの向上を図ることが目的である。
後半はブレイクアウトルームを活用した少人数グループワークに移行する。口腔内写真撮影や初期治療をテーマに、MTMを実践する中で直面するよくある課題を持ち寄り、少人数で率直な意見交換を行う。課題を言語化し、各医院の運用上の問題を洗い出すことで、翌日からの診療改善に直結する具体的な解決策を参加者自身が模索する構成となっている。